運動は刺激であり、適応は休んでいる間に起きる。睡眠を削って運動時間を作るのは、口座から引き出して同じ口座に入金するようなものだ。この章では、時間・休養感・リズムの3点で睡眠を見る。
第9章 / 全10章
睡眠を「何時間寝たか」だけで見るのは粗すぎます。3つの軸で見ます。
令和6年の国民健康・栄養調査では、睡眠で休養が取れている人は約80%、睡眠時間が6時間以上9時間未満(60歳以上は6時間以上8時間未満)の人は約56%。時間と休養感は一致しません。長く寝ても休まらない人がいて、短くても休まる人がいます。
平日は7時起き、休日は9時半起き。中間時刻のズレは約2時間——毎週、2時間の時差のある土地へ往復しているのに近い状態です。これを社会的時差ボケと呼びます。
睡眠時間が足りていても、リズムがずれていれば体内時計は無理をしています。計算機で自分のズレを数字にしてみてください。多くの人が、思ったより大きい値を見ることになります。
日中の身体活動は、入眠までの時間を短くする方向に働きます。逆に、睡眠不足は同じ練習量に対する適応を鈍らせます。両者は資源を奪い合う関係ではなく、互いを増幅する関係です。
睡眠を削って早朝ランに出るのは、多くの場合、割に合いません。まず眠り、余った時間で走る——順序が逆になっていないか、点検してください。
平日 24:30就寝/7:00起床、休日 25:30就寝/9:30起床、必要睡眠7時間の場合:
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 平日の睡眠 | 6.5 h |
| 休日の睡眠 | 8.0 h |
| 週の実睡眠(6.5×5 + 8.0×2) | 48.5 h |
| 必要量(7×7) | 49.0 h |
| 週の睡眠負債 | 0.5 h |
| 睡眠中間時刻(平日/休日) | 27:45 / 29:30 |
| 社会的時差ボケ | 1.75 h |
負債はほぼゼロ。しかし社会的時差ボケは1時間45分あります。「寝だめできているから大丈夫」と思っていた人が、リズムの側で無理をしていることが、この2つを並べて初めて見えます。
睡眠負債の一部は返済できますが、完全には戻らないとされています。加えて、休日の遅起きは社会的時差ボケを拡大します。返済の効果と、リズムの乱れという副作用が同時に起きます。
本サイトは正解を示しません。必要量の個人差が大きく、断定は害になり得ます。目安として、休日に目覚ましなしで寝たときの睡眠時間が、あなたの必要量に近いと考えられます。
本サイトは睡眠の医学的な問題を扱いません。入眠困難や中途覚醒が長く続き、日中の生活に支障がある場合は、自己流の対処を重ねる前に医療機関にご相談ください。
1. 社会的時差ボケが指すものは。
休日に遅寝遅起きへずれる量です。負債がゼロでも生じます。
2. 運動と睡眠の関係として正しいのは。
適応は休んでいる間に起こります。睡眠が削られれば、同じ運動量でも伸びは鈍ります。